Vol.14
―「域学連携」を前面に―
ソーシャルイノベーション検討チームが答申
<組織横断15人チームで協議>
「実学」を旨とする新潟青陵学園は「2040青陵将来ビジョン」として、「人と社会がともに奏でるソーシャルイノベーションスクエア」を設定し、その実現を目指して歩んでいます。今年3月の「理事長室から」では「『変革の拠点』立ち上げへ」「地域から求められる青陵を創るソーシャルイノベーションセンター」と題して、その方向性をお伝えしました。「ソーシャルイノベーションスクエア」とは「地域・社会の課題解決に向けて、多くの方々が集う場」と考えています。
スクエアに向けて、しっかりと踏み出すため、まず「地域の課題を持ち寄り、みんなの力で解決に向けて動き出すための総合相談窓口」とでもいうべき「ソーシャルイノベーションセンター(SIC)」を学園に設置することとし、青陵が目指すソーシャルイノベーション(SI)の具体方向とセンターのあるべき姿について検討するチームを3月に結成しました。検討チームは大学、短大、高校教員と職員たち計15人(=注1=)で構成され、組織の垣根を超えて多様な角度からセンターについての考え方を掘り下げてきました。
<半年かけての検討の成果>
今回、半年かけての検討・協議を終え、「青陵らしいソーシャルイノベーションとは」についての答申を、チームの総括責任者である三浦修・大学福祉心理子ども学部教授ら検討チームからいただきました。基本コンセプトは、青陵学園と地域との連携を促進する「域学連携」と、教育・実践・研究の好循環による「資源化」です。この答申を基に、学園の経営会議などで最終調整を行い、2025年度の早い段階で「青陵ソーシャルイノベーションセンター(青陵SIC )」を学内に開設し、「地域から必要とされ、頼りにもされる青陵学園」の姿を明らかにしていきます。
<「域学連携」の方向性>
基本コンセプトの一つ、「域学連携」は青陵将来ビジョンを推進するために学園内に設けた「SIC検討部会」の分科会である「地域を巻き込んでの既存事業発展」と、青陵OG・OBに限らず広く青陵関係者をネットワークする「青陵アルムナイ事業」の取り組みを踏まえたものです。これからの取り組みを「青陵らしいSI実践コミュニティ」と名付け、次の3点を推進します。
①「学園」(大学・短大・高校・幼稚園)と「地域」(SEIRYOアルムナイ、自治体、コミュニティ団体)とで地域課題解決に取り組むネットワークの強化
②SIC関連分科会事務局機能を社会連携センターに統合し、ボランティアセンターとの協働によるプロジェクト企画・運営などを教育・研究活動の一環として実施
③ボランティアセンターを学園のもとに置き、共同主体性や市民性を涵養するコミュニティ・サービスラーニング推進拠点・ブランド発信拠点として再構築
現在は大学・短大の組織である社会連携センターとボランティアセンターを学園全体のものとし、既に地域と共に取り組んでいる活動をさらに発展させていく考え方は現実的であり、理事長としても全面的に賛同できるものです。
<教育・研究・実践の好循環とは>
基本コンセプトのもう一つの柱、「教育―実践―研究の好循環による資源化」について、検討チームはこう考えています。
①教育教育=青陵らしいSI 人材育成=「探究力や問題解決力の高い人材を育成するため、さまざまな社会的経験を通じて、主体的に学ぶ力、責任ある行動をとる力、対立やジレンマを克服する力などレジリエンスを育む」ことを基本方針とし、社会に開かれた教育課程を構築する。具体的には短大人間総合学科と大学社会福祉学科のカリキュラムをもとに「ソーシャルイノベーター養成プログラム」を開発し、高校生やアルムナイも含めて実施する
②実践=青陵らしいコミュニティ・サービスラーニング=学生・生徒のみならず地域を含むアルムナイが参画できる課題解決型プロジェクトの活動母体「青陵らしいSI実践コミュニティ」の実践により、社会と繋がり、地域に根差した活動を社会に発信することで、「青陵ブランド」の定着を図る
③研究=青陵らしいSI戦略=「地域社会活性化」「人間生涯発達支援」の両分野(=注2=)での課題解決に役立つ社会資源の開発・普及・定着を目指し、4つのステップ(プロジェクト立ち上げ―チームビルディング―プロジェクト推進―社会実装支援プログラム実施)を一連のサイクルとして戦略的に展開する
青陵学園が核となりつつも地域などの関係を重視していきます。「課題解決に役立つ社会資源の定着」については、「自治体など行政施策への導入」をイメージしており、「好循環による資源化」がひとまず実現することになります。
<青陵SICの目指す機能・役割>
検討チームは「青陵SIC」が持つべき機能として、①地域課題発見・分析機能②仲介・触媒機能③共創拠点機能④資源(人材)開発機能―の4点を挙げ、果たすべき役割として「コーディネートを中心とした中間支援的役割」としています。これも学園として妥当なものと受け止めています。
また、検討チームは「既存事業・既存機能の活用」を重視しています。「青陵SIC」についても、「新たな機関として設置するのではなく、既存の社会連携センターを学園組織として位置づけ直し、SICの事務的・中間支援的役割を担う機関として改編する」よう念押しをしてくれました。これは「関西学院大学社会連携・インキュベーション推進センター」の取り組みを参考にし、ヒアリングなどを実施した結果で、学園としても「良い方向性ではないか」と受け止めています。
<青陵SIC成功のカギは?>
検討チームは「青陵らしいSI推進の基本方針」(=注3=)を考えるに当たり、第一の柱として「事業・業務区分ごとで課題に向き合う古いフレームワークからの脱却」を挙げ、「地域との共栄」や「異分野へのリスペクト醸成と結合」などを踏まえた上での結論的方向として「総合知的に課題に向き合う新しいフレームワークへの転換」を明示しました。
この「新しいフレームワーク」として、答申書の終盤に「マトリクス型組織」が挙げられています。これは、様々な組織編制を組み合わせた網目のような組織編制のことで、検討チームの実施責任者である小林智・大学福祉心理子ども学部准教授は「これが青陵SICを成功させる最大のカギとなる」と述べ、つぎのように話されました。
「SICはその性質上、多種多様な人材が積極的にコミットメントすることで、その機能が発揮される。幸い、今回の検討で青陵には多様なシーズが豊富にあることが分かった。他者の専門職能を理解しリスペクトする気風を醸成しつつ、各部局の機能を出し合い、ワクワク感をもって取り組んでいく精神を学園全体に浸透させていくことが重要です」
<イノベーティブなアイデアも列記>
検討チームは取り組みの参考として3つの具体アイデアも提示しました。ここでは1だけ紹介します。
アイデア1=若干距離が離れている大学・短大と高校の一体感を増すために、高校のスクールバスの待ち合わせ場を大学・短大1号館前の構内に設置することです。現在、高校にはバスの待ち合わせ場所がないことが課題になっていますが。これを少し離れても大学・短大構内に設置することで、バス待ち時間に高校生が大学・短大の図書館を利用することで一体感を深め、様々な活動を一緒に行う土台づくりとする。
ほかの2つも興味深いものなので、学園で実現に向けての検討を開始します。
<アイデアを形にしよう>
検討チームは答申の締めくくりにこう記しています。
「2025年度は、SIC検討チームから出されたイノベーティブなアイデアを形にし、『交流が生まれることによる価値』を青陵学園内に示し、学園内教職員が『青陵が変わってきた』『新しい事業に関わるのは楽しそう』『今まで個人で進めていた事業をSICに協力してもらいたい』と前向きな気持ちをもってもらう下地を作る一年にできればよいと考える」
検討チームは熱心に協議を重ね、大変に良い方向で答申をまとめてくれたと思います。答申を私に渡していただいた時も検討チームのメンバーが「今回、他組織の方と意見交換する中で、学内資源を可視化できて、『こんなに色々なことができる方が学園にいるのか』と実感し、楽しくなりました」とか、「社会課題を解決し、社会実装まで高めていくことに挑戦できると思うとワクワクします」などと話してくれました。
「今後、学園でどう具体化を図るか」―理事者サイドの力量が問われてきますが、ここも「ワクワク感をもって」SIC設置に向けての詰めをやっていきます。
(以下、検討チームの概要版に沿って、これまでの作業内容などを紹介します。これまでの流れを把握いただければ幸いです)
=注1=<検討チームメンバー>大学:三浦修(総括責任者)、小林智(実施責任者)、齊藤勇紀、関谷昭吉、小柳達也、森田千穂 短期大学部:関久美子(実施責任者)、村山和恵、相澤里美 高等学校:金子昌弘(実施責任者)、押見ちひろ、杉山大和 事務職員:宮口優介(実施責任者)、片桐崇志、佐藤瑞樹
―これまでの経緯―
<青陵教職員にアンケート>
3月に発足した検討チームは「青陵らしいソーシャルイノベーション」を考える土台確認のため、今春、学園教職員に対し「地域課題解決と人材育成育成への取り組みと意見」についてアンケート調査を実施しました。これに基づき青陵らしいSIを「地域社会活性化分野」(テーマ=新しいコミュニティの創造)と「生涯発達支援分野」(テーマ=多様な人間の共生)の2つ(=注2部分=)に整理しました。ここに青陵の目指すSIの特徴が表れていると思いますので各8項目を紹介します。
<青陵らしいSI推進の基本方針>
また、青陵学園ではSIを推進するに当たり新川達郎(同志社大・政治学)、大室悦賀(長野県立大・経営学)、宮城孝(法政大・社会福祉学)の3先生から学園でご講演いただき、それぞれの切り口からのSIについて理解を深めました。
さらに青陵SI推進の基本方針を作成するため、2024年度に「社会連携センター」を「社会連携・インキュベーション推進センター」に改称した関西学院大学関係者からヒアリングを行い、参考にさせていただきました。関西学院大では社会連携のゴールとして①研究成果の社会実装②アントレプレナーの育成を据え、既存センターのさらなる活用を図りながら、各センターの〝上位機関〟として「研究創発センター」を位置付けています。
上記のお考え・取り組みを参考にして、検討チームは「青陵らしいSI推進の基本方針」(=注3部分=)として4本柱からなる試案を作成しました。4本柱は①「事業・業務区分ごとで課題に向き合う古いフレームワーク」からの脱却②「学園資源・機能の活用」「教育の質保証の強化」「地域との共栄」を重視した教育事業の展開③「実践知を生み、つなぐ」「未来を描く対話の場づくり」「異分野へのリスペクト醸成と結合への取り組み④「総合知的に課題に向き合う新しいフレームワーク」への転換―です。これは「縦割り的思考」を脱し、後述する「マトリクス型組織」(様々な組織編制を組み合わせた網目のような組織編制)に転換しようとする考えで、個人的にも大変すばらしい基本方針と思います。また、「異分野へのリスペクト醸成と結合」も、青陵に必要な“考え抜かれた文言”と受け止めています。
<青陵らしいSI実践コミュニティ>
次に検討チームは、青陵学園がSIC関連分科会で既に取り組んでいる「地域を巻き込んでの既存事業」と、OB・OGや学園関係者の総力を集める「青陵アルムナイ事業」に着目。両事業を発展させることで「青陵らしいSI実践コミュニティ」を創出する試案を作成しました。
試案は3項目からなり、1点は「『学園』(大学・短大・高校・幼稚園)と『地域』(SEIRYOアルムナイ、自治体、コミュニティ団体)とで課題解決に取り組むネットワーク強化」、2点目は「SIC関連分科会事務局機能を、社会連携センターに統合し、ボランティアセンターとの協働によるプロジェクト企画、運営など教育、研究活動の一環として事業継続」、3点目は「(現在大学・短大の組織となっている)ボランティアセンターを学園のもとに置き、『共同主体性』『市民性を涵養するコミュニティ・サービスラーニング推進拠点』『ブランド発信拠点』として再構築」―というものです。
先の「青陵らしいSI推進基本方針(試案)」と合わせ、2つの試案で「青陵SIC」の方向性が固まったと受け止めています。
これらの検討作業を踏まえて「基本コンセプト」や「SICの機能・役割」を検討チームから立案してもらいました。これまでの検討チームの努力に感謝し、来年度の「青陵SIC設置」へ進んでいきます。青陵のイノベーティブな取り組みに期待してください。
2024年10月11日
新潟青陵学園理事長 篠田 昭